ワカサギ資源管理の楽しみ方(春から夏へ)
ワカサギ受精卵をシュロ枠に付着させたものを仕入れ、湖水に浸漬する従来法であろうと、
受精卵を仕入れ、カオリンで脱粘処理し、魚卵ふ化装置に収容管理するふ化装置法であろうと、
ワカサギがふ化したからと言って、秋には即、釣れるというものではない。
成魚となって釣れることを目標とする場合、
放流量等(例えば、内水面漁場管理委員会指示の1000万粒)の80〜90%の高率で、ふ化確認が
できたとしても、まだ採点は50点止まりと考えるべきであろう。
なぜなら、ふ化初日から以降、ワカサギ仔稚魚は人為の及ばない自然界での、成長を余儀なくされるからである。
本稿では、春先のふ化直後の仔魚(全長5mm)から、ふ化60〜70日後の稚魚(全長30mm)段階にいたる期間に
発生する可能性の高い主たる問題点と、現場で実施可能な現状把握手法あるいは問題解決の概要を、3項目に代表させ検討する。
代表3項目は、以下の通りである。
1 初期餌料は存在するか、量は充分か
2 集中豪雨時、仔魚の流失はないか
3 今、どの大きさになっているか
1 初期餌料は存在するか、量は充分か
亀山湖において、湖水中から偶然捕獲されたワカサギ仔魚を実測すると、その全長は5mmであった。
また、魚体特徴からこの仔魚を、ふ化直後の仔魚と判定した(01)。
この仔魚が食べることのできる餌は、必然的に口径より小さいものである。
ふ化後数日から一週間程度の内に、初期餌料をとらなければ、ふ化仔魚は斃死する。
従って、ふ化期間における湖水中の初期餌料の存在と量の把握は、仔魚の生残を間接的に確認する方法である。
初期餌料の確認は、志ある漁業協同組合にとって当然の行為であるばかりでなく、
確認と結果発表は漁業協同組合の主たる収入(入漁料)を負担する顧客(遊漁者・釣り人)への義務的証明事項のひとつと言っても過言ではなかろう。
ワカサギ仔魚の初期餌料として有効とされる動物プランクトンに、以下のものがある。
90〜290μ程度のミツウデワムシ、カメノコウワムシ、ヒルガタワムシ、ツボワムシ(02)。
また、よしさんは観察に基づき以下の動物プランクトンも、その大きさから初期餌料と見なせるものと推定する。
テマリワムシ、ハネウデワムシ。
これらの動物プランクトンの存在確認(定性的確認)、ならびに量的確認(定量的確認)が着手の第1である。
初期餌料の確認から結果発表にいたる、工程とツールの一例を示せば以下のようである。
「採取」プランクトンネット+ホルマリン固定
「観察・撮影」光学顕微鏡+デジタルカメラ
「同定」日本淡水動物プランクトン検索図説
「結果発表」パソコン+インターネット(ホームページ)
ワカサギ仔魚が、全長10mmを超える段階(本稿3節参照)になれば、
餌料として利用できる動物プランクトンも、より大型が範疇に入りだす。
タマミジンコ、ゾウミジンコ、ケンミジンコ(の小型)であり、
珍しく動物プランクトンを餌にするフクロワムシ(の小型)である。もちろん各々の幼生も餌料となる。
亀山湖内3ケ所の事例では、2006年04月10日、および04月29日調査において、90〜290μ程度の小型動物プランクトン
を、よしさんは未確認であった。
05月27日に初期餌料となり得る、ハネウデワムシ、フクロワムシ(の小型)を追加確認した(03)が、ワカサギ仔魚がふ化直後の全長5mm
から全長10mmを超える段階へ成長し生残しているかは、未確認である。
湖水中の動物プランクトン調査(餌料生物の確認)は、春先のワカサギ卵のふ化放流時期から少なくとも07月末日まで、継続実施することが望ましい。
2 集中豪雨時、仔魚の流失はないか
集中豪雨による湖沼への流入水量激増は、通常発生し得る問題点のひとつである。
仔魚の運動能力と湖水の流速の関係、と置き換えれば何が問題であるかが理解できよう。
こうした視点からの定評ある報文が見つからないので、考え方を検討し、ひとまず仮説を提案したい。
問題を整理し、次の算数とみなして検討すれば、3ケースであると思える。
(ケース1)ほぼ流失する(A)=仔魚の運動能力(M)<湖水の流速(L)
(ケース2)不明(B)=仔魚の運動能力(M)≒湖水の流速(L)
(ケース3)流失しない(C)=仔魚の運動能力(M)>湖水の流速(L)
そこでまず、湖水の流速(L)を考察する。
流速(L)を、水路を流れる流量(Q)を水路断面積(V)で割った値、と定義してみる。
すると、流量(Q)と水路断面積(V)を知る必要があることに気付く。
亀山湖(人造湖)のように、該当水域に管理者がいれば、流入水量は記録されている。
集中豪雨時なら、該当水域から下流への流出(放流量)を伴うため、本稿では流入水量=流量(Q)と、流量(Q)が最大の悪条件
で検討する。
該当水域に管理者が不在でも、河川流量や近傍の測候所発表の降水量を用いて、比較的簡単に流入水量
が得られるものと思われる。
次に水路断面積(V)、つまり湖沼の断面積(V)である。
湖沼の断面は湖面巾と水深により一定ではないが、本稿の主旨(ワカサギ仔魚)に鑑み、検討水域におけるワカサギふ化箇所としたい。
算数は湖沼の断面積(V)が大きいほど流速(L)が遅くなり、ワカサギ仔魚が流失しない(C)方向へ向かうため、
ワカサギ仔魚に有利となるよう、亀山湖の事例では、湖面巾の最大部分に設置したワカサギふ化箇所を計算対象とした。
具体的には、屋敷跡の東屋とトキタボートを結ぶ断面の距離、250mである。
他の場所は、この数値より狭く、流速(L)が早くなり、ワカサギ仔魚が流失する(A)方向へ向かうことが明白であるため、
この1例をチェックすれば、足りることになる。
断面積(V)を求めるための水深を、図1(上)のように考える必要はなく、図1(下)のように単純化する。
根拠は、台風時にダム湖内流速の垂直分布に変化がない(04)、とした議事骨子である。
この議事骨子に従えば、表層も深層も一定の流速(L)となる。
さらに、先に触れた、流入水量=流量(Q)=流出(放流量)との最大の悪条件を勘案すると、
水深毎の流速(L)を解析する必要のないことと、ダム湖の常時満水位以下は(ある種のデッドゾーンで)考慮しなくても差し支えないことが
わかる。
従って、図1(下)のような単純化が成立するものと思える。
亀山湖は、常時満水位EL80.60mとサーチャージ水位EL84.00m間の水深3.40mの容量435万m3を利用し、
ピーク流量840m3/Sの内、345m3/Sを調整する、また、流入水量が200m3/Sを超えれば放流する管理運用ルールである。
亀山湖における諏訪湖産ワカサギ受精卵のふ化初日・2006年04月05日以降の、集中豪雨は04月12日に発生した。
JR久留里線も運転見合わせになり、館山市で河川氾濫が起きた。
亀山湖は常時満水位を超え、ダムは非常放水した。少なくとも流入水量は200m3/Sを超えていたものと考えられる。
前述の要素を計算すれば、
断面積(V)=250m巾×3.40m水深=850m2となる。
200m3/Sが850m2に流入するのではなく、2大インレット(流入部)の内、笹川+月毛沢相当の約40%は除外補正し(05)、
60%を対象とする。
対象流入水量=200m3/S×60%=120m3/S
湖水の流速(L)=120m3/850m2=0.1411m/S=14.11cm/Sである。
もし湖沼が、ここに検討したような人造湖(ダム湖)ではなく、フラット・シャローな自然成因湖沼ならば、ワカサギふ化箇所の表層からボトム
間を断面積(V)に採用して良い。
最後の難関は、仔魚の運動能力である。
先の報文「ワカサギの人工種苗生産技術の開発に関する研究−T」(02)に、
「ワカサギ仔稚魚の遊泳速度」(第4図)という興味深い図が掲載されている。
横軸に魚体重(mg)をとり、縦軸は遊泳速度(cm/S)である。
図中4点の実測値の内、最小魚体重は2.5mgで、それは全長5〜6mmのふ化直後の仔魚にあたり、その遊泳速度は5cm/Sと読める。
2006年04月12日に、亀山湖に生息していたのは、まさに全長5mmのふ化直後の仔魚であった。
得られた結論は、
仔魚の運動能力(M)<湖水の流速(L)=5cm/S<14.11cm/S=(ケース1)ほぼ流失する(A)
「集中豪雨時、仔魚の流失はないか」の問いに答える考え方と、亀山湖の事例を用いた仮説は以上である。
3 今、どの大きさになっているか
ワカサギふ化後の仔魚期における成長を公表したデータは、充分に多くはない。
本稿では公表2例(06)を基に、2006年亀山湖において「今、どの大きさになっているか」を追跡・確認するための考え方を検討する。
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