ODL・トーク Outdoor Life Talk
今回のテーマ
this time theme.
ワカサギ資源管理の楽しみ方(春から夏へ)
A way of enjoying japanese smelt resources management(From spring to summer).
[整理番号:0105]
ワカサギ資源管理の楽しみ方(春から夏へ)

ワカサギ受精卵をシュロ枠に付着させたものを仕入れ、湖水に浸漬する従来法であろうと、 受精卵を仕入れ、カオリンで脱粘処理し、魚卵ふ化装置に収容管理するふ化装置法であろうと、 ワカサギがふ化したからと言って、秋には即、釣れるというものではない。
成魚となって釣れることを目標とする場合、 放流量等(例えば、内水面漁場管理委員会指示の1000万粒)の80〜90%の高率で、ふ化確認が できたとしても、まだ採点は50点止まりと考えるべきであろう。
なぜなら、ふ化初日から以降、ワカサギ仔稚魚は人為の及ばない自然界での、成長を余儀なくされるからである。
本稿では、春先のふ化直後の仔魚(全長5mm)から、ふ化60〜70日後の稚魚(全長30mm)段階にいたる期間に 発生する可能性の高い主たる問題点と、現場で実施可能な現状把握手法あるいは問題解決の概要を、3項目に代表させ検討する。

代表3項目は、以下の通りである。
1 初期餌料は存在するか、量は充分か
2 集中豪雨時、仔魚の流失はないか
3 今、どの大きさになっているか

1 初期餌料は存在するか、量は充分か
亀山湖において、湖水中から偶然捕獲されたワカサギ仔魚を実測すると、その全長は5mmであった。 また、魚体特徴からこの仔魚を、ふ化直後の仔魚と判定した(01)。

ふ化直後のワカサギ仔魚
この仔魚が食べることのできる餌は、必然的に口径より小さいものである。 ふ化後数日から一週間程度の内に、初期餌料をとらなければ、ふ化仔魚は斃死する。 従って、ふ化期間における湖水中の初期餌料の存在と量の把握は、仔魚の生残を間接的に確認する方法である。
初期餌料の確認は、志ある漁業協同組合にとって当然の行為であるばかりでなく、 確認と結果発表は漁業協同組合の主たる収入(入漁料)を負担する顧客(遊漁者・釣り人)への義務的証明事項のひとつと言っても過言ではなかろう。
ワカサギ仔魚の初期餌料として有効とされる動物プランクトンに、以下のものがある。
90〜290μ程度のミツウデワムシ、カメノコウワムシ、ヒルガタワムシ、ツボワムシ(02)。 また、よしさんは観察に基づき以下の動物プランクトンも、その大きさから初期餌料と見なせるものと推定する。 テマリワムシ、ハネウデワムシ。
これらの動物プランクトンの存在確認(定性的確認)、ならびに量的確認(定量的確認)が着手の第1である。

初期餌料の確認から結果発表にいたる、工程とツールの一例を示せば以下のようである。
「採取」プランクトンネット+ホルマリン固定
「観察・撮影」光学顕微鏡+デジタルカメラ
「同定」日本淡水動物プランクトン検索図説
「結果発表」パソコン+インターネット(ホームページ)
ワカサギ仔魚が、全長10mmを超える段階(本稿3節参照)になれば、 餌料として利用できる動物プランクトンも、より大型が範疇に入りだす。
タマミジンコ、ゾウミジンコ、ケンミジンコ(の小型)であり、 珍しく動物プランクトンを餌にするフクロワムシ(の小型)である。もちろん各々の幼生も餌料となる。

検鏡観察待ちのサンプル
亀山湖内3ケ所の事例では、2006年04月10日、および04月29日調査において、90〜290μ程度の小型動物プランクトン を、よしさんは未確認であった。 05月27日に初期餌料となり得る、ハネウデワムシ、フクロワムシ(の小型)を追加確認した(03)が、ワカサギ仔魚がふ化直後の全長5mm から全長10mmを超える段階へ成長し生残しているかは、未確認である。
湖水中の動物プランクトン調査(餌料生物の確認)は、春先のワカサギ卵のふ化放流時期から少なくとも07月末日まで、継続実施することが望ましい。

2 集中豪雨時、仔魚の流失はないか
集中豪雨による湖沼への流入水量激増は、通常発生し得る問題点のひとつである。 仔魚の運動能力と湖水の流速の関係、と置き換えれば何が問題であるかが理解できよう。 こうした視点からの定評ある報文が見つからないので、考え方を検討し、ひとまず仮説を提案したい。
問題を整理し、次の算数とみなして検討すれば、3ケースであると思える。
(ケース1)ほぼ流失する(A)=仔魚の運動能力(M)<湖水の流速(L)
(ケース2)不明(B)=仔魚の運動能力(M)≒湖水の流速(L)
(ケース3)流失しない(C)=仔魚の運動能力(M)>湖水の流速(L)
そこでまず、湖水の流速(L)を考察する。
流速(L)を、水路を流れる流量(Q)を水路断面積(V)で割った値、と定義してみる。 すると、流量(Q)と水路断面積(V)を知る必要があることに気付く。 亀山湖(人造湖)のように、該当水域に管理者がいれば、流入水量は記録されている。 集中豪雨時なら、該当水域から下流への流出(放流量)を伴うため、本稿では流入水量=流量(Q)と、流量(Q)が最大の悪条件 で検討する。 該当水域に管理者が不在でも、河川流量や近傍の測候所発表の降水量を用いて、比較的簡単に流入水量 が得られるものと思われる。
次に水路断面積(V)、つまり湖沼の断面積(V)である。
湖沼の断面は湖面巾と水深により一定ではないが、本稿の主旨(ワカサギ仔魚)に鑑み、検討水域におけるワカサギふ化箇所としたい。 算数は湖沼の断面積(V)が大きいほど流速(L)が遅くなり、ワカサギ仔魚が流失しない(C)方向へ向かうため、 ワカサギ仔魚に有利となるよう、亀山湖の事例では、湖面巾の最大部分に設置したワカサギふ化箇所を計算対象とした。
具体的には、屋敷跡の東屋とトキタボートを結ぶ断面の距離、250mである。
他の場所は、この数値より狭く、流速(L)が早くなり、ワカサギ仔魚が流失する(A)方向へ向かうことが明白であるため、 この1例をチェックすれば、足りることになる。

図1:東屋とトキタボートを結ぶ断面模式図
断面積(V)を求めるための水深を、図1(上)のように考える必要はなく、図1(下)のように単純化する。
根拠は、台風時にダム湖内流速の垂直分布に変化がない(04)、とした議事骨子である。
この議事骨子に従えば、表層も深層も一定の流速(L)となる。
さらに、先に触れた、流入水量=流量(Q)=流出(放流量)との最大の悪条件を勘案すると、 水深毎の流速(L)を解析する必要のないことと、ダム湖の常時満水位以下は(ある種のデッドゾーンで)考慮しなくても差し支えないことが わかる。
従って、図1(下)のような単純化が成立するものと思える。
亀山湖は、常時満水位EL80.60mとサーチャージ水位EL84.00m間の水深3.40mの容量435万m3を利用し、 ピーク流量840m3/Sの内、345m3/Sを調整する、また、流入水量が200m3/Sを超えれば放流する管理運用ルールである。
亀山湖における諏訪湖産ワカサギ受精卵のふ化初日・2006年04月05日以降の、集中豪雨は04月12日に発生した。 JR久留里線も運転見合わせになり、館山市で河川氾濫が起きた。 亀山湖は常時満水位を超え、ダムは非常放水した。少なくとも流入水量は200m3/Sを超えていたものと考えられる。
前述の要素を計算すれば、
断面積(V)=250m巾×3.40m水深=850m2となる。
200m3/Sが850m2に流入するのではなく、2大インレット(流入部)の内、笹川+月毛沢相当の約40%は除外補正し(05)、 60%を対象とする。
対象流入水量=200m3/S×60%=120m3/S
湖水の流速(L)=120m3/850m2=0.1411m/S=14.11cm/Sである。
もし湖沼が、ここに検討したような人造湖(ダム湖)ではなく、フラット・シャローな自然成因湖沼ならば、ワカサギふ化箇所の表層からボトム 間を断面積(V)に採用して良い。

最後の難関は、仔魚の運動能力である。
先の報文「ワカサギの人工種苗生産技術の開発に関する研究−T」(02)に、 「ワカサギ仔稚魚の遊泳速度」(第4図)という興味深い図が掲載されている。
横軸に魚体重(mg)をとり、縦軸は遊泳速度(cm/S)である。
図中4点の実測値の内、最小魚体重は2.5mgで、それは全長5〜6mmのふ化直後の仔魚にあたり、その遊泳速度は5cm/Sと読める。
2006年04月12日に、亀山湖に生息していたのは、まさに全長5mmのふ化直後の仔魚であった。
得られた結論は、
仔魚の運動能力(M)<湖水の流速(L)=5cm/S<14.11cm/S=(ケース1)ほぼ流失する(A)
「集中豪雨時、仔魚の流失はないか」の問いに答える考え方と、亀山湖の事例を用いた仮説は以上である。

3 今、どの大きさになっているか
ワカサギふ化後の仔魚期における成長を公表したデータは、充分に多くはない。
本稿では公表2例(06)を基に、2006年亀山湖において「今、どの大きさになっているか」を追跡・確認するための考え方を検討する。

ワカサギふ化後の仔魚成長表
公表1
水産増殖叢書No.5 
1954 佐藤隆平
  32日目
12.5mm
  47日目
17.5mm
66日目
30.0mm
公表2
茨城県内水試報告書14号
1977 堀 直・位田俊臣
21〜23日目
10mm、1.6mg
  35〜39日目
15mm、6.8mg
43〜49日目
20mm、10.3mg
 
事例1 2006 亀山湖
諏訪湖産 2006年04月05日ふ化初日
(10日ふ化仔魚5mm、よしさん確認)
04月25日〜04月27日
未確認
05月06日
未確認
05月09日〜05月13日
未確認
05月17日〜05月23日
未確認
(05月27日よしさん採取できず)
06月09日
 
事例2 2006 亀山湖
網走湖産 2006年04月23日ふ化初日
05月13日〜05月15日
未確認
05月24日
未確認
05月27日〜05月31日
未確認
(05月27日よしさん採取できず)
06月04日〜06月10日
 
06月27日
 
事例3
2006 your lake
日付を算入してお楽しみ下さい
         
公表2例により、よしさん作成:2006年06月01日
公表2例のデータ取得環境と、2006年亀山湖環境が同一とは思えぬため、公表2例は目安に過ぎないという考え方もあろう。 しかし、水質・水温・餌料生物の多寡・競合生物の有無等を勘案しても、かなり有力で基本的な目安である。
表に示すように、当地におけるワカサギふ化初日を代入の上、期間計算をしてみる。
これだけで、「今、どの大きさになっているか」の目安が判明する。
春から秋まで、「行方不明」「情報なし」の粗放漁業状態とは、明らかに一線を画すものだ。
表の下段(空欄)に、任意(あなた)の湖沼における、ワカサギふ化初日を代入し期間計算をすれば、 「今、どの大きさになっているか」を推定するツールとして、「表1枚の科学」が利用できる。

推定の次は、この前提における確認である。 確認とは、仔魚の採取に他ならない。
たった1尾でも良い、某日採取した仔魚を仔細に観察しよう。全長と重量も測ることだ。
その地道な作業を毎年積上げたら、特定の湖沼におけるワカサギ仔魚成長データが得られ、複数年のデータを基に、 その時点でやっと、
「今年は(ワカサギ仔魚成長データに比し)順調に生育しているようだ」と、根拠ある発言も可能になるものと考える。
なお、研究目的の試験的仔魚採取であっても、 地方自治体の内水面漁業調整規則に従い、該当すれば「試験研究等の適用除外」申請を行う必要がある。

春から初秋まで、ワカサギは放任・忘却され、「秋冬に釣れるとイイナ」と単に期待だけされているのが、現状ではあるまいか。
この間、自然界でワカサギが越えなくてはならないハードルがあり、ワカサギを「業」とする中小規模漁業協同組合および自主的放流管理者 が春から夏へ実施可能なマイルストーンをまとめて検討した。
誤りの指摘、批判を頂ければ幸いであり、本稿を機に、より楽しいワカサギ資源管理方法の提案があれば嬉しい。

【参考文献】
(01)「ふ化直後のワカサギ仔魚」亀山湖ワカサギ情報:ふ化放流ノート、2006年、よしさん(別窓が開きます)
(02)「ワカサギの人工種苗生産技術の開発に関する研究−T」仔魚が摂餌可能な餌の大きさなどについて:
茨城県内水面水産試験場調査研究報告14号、1977年、堀 直・位田俊臣(別窓が開きます)

(03)「亀山湖(角柳)の動物プランクトン」亀山湖ワカサギ情報:ふ化放流ノート、2006年、よしさん(別窓が開きます)
(04)「沙流川流域における2003年8月洪水でのSSおよび流木調査」 土木学会水工学委員会 平成15年台風10号北海道豪雨
災害調査団中間報告会(第3回打合せ会議)議事骨子:2003年、小川研究員(別窓が開きます)

(05)「亀山湖インレット別流域面積計算及びグラフ」ザ・レイクチャンプ: シークレット・ポイント0005亀山湖、1997年、よしさん(別窓が開きます)
(06)1例目は、「ワカサギの漁業生物学」:水産増殖叢書No.5、1954年、佐藤隆平
(06)2例目は、前記(02)に同じ

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Updated.2006年06月01日発表
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