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釣魚本大繕『湖・沼』『海洋の話』の製本修理
The bookbinding repair of "lake/marsh" "story of the ocean".
釣魚本大繕『湖・沼』『海洋の話』の製本修理
The bookbinding repair of "lake/marsh" "story of the ocean".
[整理番号:0126]
直接の釣本ではないが、釣りにまつわる本として(広義に拡大解釈するのも、よしさんの得意技)、 陸水学者・吉村信吉の2冊が傷んでいたので、まとめて製本修理した。
では、Let's go together!

『湖・沼』は、本製本でなく仮製本の一種「くるみ表紙(おかしわ)」で、発行された。
中身を、表紙+背+裏表紙と続く一枚の紙で、くるんで、背だけを接着させた構造の、 背の日焼けが進み、角が擦れ、ついに表紙が取れる事態となったようで、 (前所蔵者により)厚手幅広の透明ビニル粘着テープで、背部が補修されていた。
久しぶりに書架から取出しチェックすると、その粘着力も薄れ、再び表紙剥離の危機であったから、 製本修理のため、劣化した粘着テープを剥がし捨てた。

fig.01 粘着力も薄れ、再び表紙剥離の危機・・ fig.02 劣化した粘着テープを剥がし捨てた
fig.01 粘着力も薄れ、再び表紙剥離の危機・・ fig.02 劣化した粘着テープを剥がし捨てた

折り丁の背が一部見える状態で、念のため、表紙と中身・裏表紙を合わせ、突き揃え、大型クリップを掛け、接着剤を塗布し乾燥させ一度背固めする。
背文字は読めぬ状態にあり、この際、新調することにして、パソコンで書名・著者名を製作し、背に貼付。
その上から、表紙+背+裏表紙と続く一枚のトレーシングペーパーで補強した。
内側は、表と裏の見返しの、のどに補強紙を入れ、製本修理完成とする。
『湖・沼』は、1907(明治40)年生まれの、吉村信吉34才の著書である。

fig.03 折り丁の背が一部見える状態 fig.04 パソコンで書名・著者名を製作し
fig.03 折り丁の背が一部見える状態 fig.04 パソコンで書名・著者名を製作し

『海洋の話』は、丸背みぞつきの表紙の、みぞ部分と背紙が虫損で傷み、天のはなぎれは失われている。

fig.05 天のはなぎれは失われ fig.06 みぞ部分と背紙が虫損で傷み
fig.05 天のはなぎれは失われ fig.06 みぞ部分と背紙が虫損で傷み

背の金文字等の雰囲気は、残したいので、背の天部分を補強の上、表紙のみぞ部分から背紙を越えて裏表紙のみぞ部分までを、 トレーシングペーパー貼りとする。
表紙の角は、海洋をイメージした水色紙を探し、事務用封筒から切りだして補強を施す。
これらの手当てで、どうにか「まあ、こんなもんだろうライン」に落ち着かせた。

fig.07 みぞ部分の傷み fig.08 表紙の角は・・
fig.07 みぞ部分の傷み fig.08 表紙の角は・・

『海洋の話』は、吉村信吉35才の著書で、時節柄(第二次世界大戦)と、職業柄(当時・陸軍士官学校教授)、少年少女向けに 平易に書かれた啓蒙書である。
とはいえ、巻末に索引と海に関する参考書19点解題が挙げられ、そこに吉村信吉の誠実さが見えるようだ。

fig.09 「まあ、こんなもんだろうライン」に落ち着かせた fig.10 製本修理完成の2冊と
『陸水学史』『淡水の動物誌』
fig.09 「まあ、こんなもんだろうライン」に落ち着かせた fig.10 製本修理完成の2冊と『陸水学史』『淡水の動物誌』

釣り人の関心分野のひとつ、湖沼についての研究は、スイスのフォーレルが先駆者とされ、続いて ドイツのティーネマン他が発展させる歴史をたどることは、ご存知の通りだ。
一方、日本では、1895(明治28)年に欧州から帰国した田中阿歌麿(あかまろ)が、山梨県山中湖の測深をした1899(明治32)年を黎明に、 その後、宮地伝三郎・上野益三・吉村信吉らにより、各地の湖沼の特性が明らかにされたことも、また良く知られている。
東京牛込区に生まれた吉村信吉は、「中学時代五中の同窓会誌に千葉県お蛇ヶ池における湖沼観測の結果を発表している」と、 山本荘毅は「日本陸水学会の歴史を振り返って(3)学会創立当時の思い出」に述べており、同じ東金市の八鶴湖も観察する等、 千葉県にもご縁があったようで嬉しい。

fig.11 『海洋の話』の一部
fig.11 『海洋の話』の一部

吉村信吉の生涯は、上野益三『陸水学史』「日本陸水学会の発足」に肖像と共に記録されており(122〜126pp)、 一部を紹介しておこう。
「吉村の陸水学への貢献は随所で述べることにしたいが、その研究活動は1925(大正15)年にはじまり1947(昭和22)年に終わった。 正味20年間の学術的活動によって、300篇以上の著述を公にし、その中には主著『湖沼学』もある。それらのうち、湖沼に関する著述がもっとも 多くて200篇を超え、地下水、河川、海洋などもあり、とくに武蔵野台地の地下水はもっとも詳しく研究した。(以下略)」
宮地傳三郎も「諏訪湖の冬期観測中に、氷の穴に落ちこんで亡くなった吉村信吉さんへの追憶」を、 『淡水の動物誌』「御神渡り」に残している(222pp〜)。
時に、1947(昭和22)年01月21日09:00頃と云う。 享年41才、合掌。

【謝辞】
(special thanks Mr T.shikano and Mr K.ootani, yoshisan.)

【参考文献】
※01『湖・沼』吉村信吉 1941(昭和16)年12月01日 1+4+236pp 科学文化叢書6 誠文堂新光社 1円30銭
※02『海洋の話』吉村信吉 1942(昭和17)年10月18日 4+283pp 新日本少年少女文庫 新潮社 1円50銭
※03『淡水の動物誌』宮地傳三郎 1972(昭和47)年07月20日第2刷 228pp 朝日新聞社 400円
※04『陸水学史』上野益三 1977(昭和52)年04月30日初版 8+367pp 培風館 3600円

※05『日本陸水学会の歴史を振り返って(3)学会創立当時の思い出』 山本荘毅 1996(平成08)年 日本陸水学会機関誌
※06『図書館の製本』  古野健雄 1972(昭和47)年02月15日第1刷 239pp 日本図書館協会 600円
※07『製本ダイジェスト』牧 経雄 1972(昭和47)年09月01日第5刷 140+5pp 印刷学会出版部 250円

【追記】
よしさんは、吉村信吉の一読者にすぎないが、遊漁や漁業(とりわけ内水面において)は、湖沼学・陸水学の成果に密接に関係することが多く、 読者&釣り人として感謝の小稿を記し、不運な碩学への追悼としたい。

【注】
『海洋の話』から本稿への、写真複製・有線送信・本HP掲載公表は、 「ベルヌ条約」及び「万国著作権条約」並びに国内法「著作権法」を踏まえた合法行為です

発表:2010年02月25日 よしさん
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