ODL・トーク Outdoor Life Talk
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釣魚本大繕『晴釣雨稿』の製本修理
The bookbinding repair of "the fine weather fishing The rainy weather writing".
釣魚本大繕『晴釣雨稿』の製本修理
The bookbinding repair of "the fine weather fishing The rainy weather writing".
[整理番号:0123]
探していた土師清二の『晴釣雨稿』を古書で入手し、大層嬉しく思っている。
『晴釣雨稿』を巻頭カラーページで紹介しているのは、丸山 信『釣りの文化誌』(1986年・恒文社)だが、 写真が小さく、函や表紙の質感が伝わらないことが残念だ。
釣り本を評するのに、質感を持ちだすには理由がある。
装丁に用いる素材により、革装・布装・紙装等あれど、本書『晴釣雨稿』は函も表紙も異色中の異色だ。
凝りに凝っており、製紙家・製本家・製函家は1000部も作らされ、さぞや泣いたであろう。
ひとことで言うなら「松装」か。
函の壊れ 松葉のハガレ跡と溝の孔
fig.01 函の壊れ(左)と fig.02 松葉のハガレ跡と溝の孔(右)

函は、厚紙の芯に松色の薄紙を表装材料の1段目に貼り、その上に特別に漉いたと思われる 粉砕松皮入り和紙を表装材料の2段目として載せている。
厚表紙(まる表紙)スタイルの表紙は、さらに苦労していて、 厚紙の芯に松色の薄紙を表装材料の1段目に用い表紙貼り、その上に特別に漉いたと思われる 原形の二又松葉入り和紙を表装材料の2段目として表紙貼りの後に、書名文字と図案をはく押し印刷している。
従って、函も表紙も細かい凸凹があり、一般書籍のようにフラットではない奇想天外さだ。
・・

発行から75年を経た『晴釣雨稿』を、外函に入ったままの状態で、一瞥する。
次には、四周と天地の6方向、否、正確には外函の5面と本の背を良く観察する。
今度は、観察を一時中断し、観察記憶と粗い製本修理構想を忘れるため、一晩放置する。
再び三度、本に訊くことを繰り返すと、本のつくりと、本が過ごしてきた環境が窺われる。
数日して、やっと、外函から本を慎重に抜きだせば、前述の松の双葉が出現する。
そろりと、表紙を開け見返しの遊びを繰って、「製本修理家」的な眼で、点検すれば、 どの部分が、どのように壊れているか、破損した原因は何かが次第に判明してくる。
観察の次のステップは、製本修理計画の決定に進む。
一方に限りなくオリジナル復元の方向があり、他方に強度や調達可能な製本材料・設備と技量・美観等がある。
新規に受け入れて書架に並べることは、子供が一人増えるようなもので、大きく破損した(しそうな)装いでは嘆かわしい。
馬子にも衣装というではないか、可能なことをしておきたいから、 二極間で完成予定像が揺れ、大抵は「まあ、こんなもんだろうライン」に調整される。

製本修理は、中から外へ進める。
背割れの兆候があったため、はり見返しの遊びのノドを開け本を分解し、みぞつき丸背に接着剤を再度施した。
ガーゼと背ばり紙は劣化していたため、新たな材料を用意し、みぞつき丸背の上にのせて接着、 背固めをし背の緩みを直す。
完成すれば見えなくなる箇所ではあるが、背ばり紙に製本修理日を記入し遊んでみた。
はなぎれは折り丁に縫いつけられておらず、装飾用に貼付されていたので、見返し用紙と共に点検清掃し、旧材料をそのまま使用した。
コスト&プライスの制約もあったであろうが、 土師清二初の随筆とて、表紙や函の独創的勢いに比し、はなぎれの処理は手抜きのようで惜しまれる。

背固め無効状態を・・ ここまで分解して製本修理開始
fig.03 背固め無効状態を・・(左) fig.04 ここまで分解して製本修理開始

外函は、構造的壊れと粉砕松皮入り和紙製表装材料の減耗が激しく、 表面に貼付された外題紙を残したものの、不本意ながら大部分を覆ってしまった。
本と外函は、どのような修理をしてもらえるかと期待しただろうが、 はてさて彼等の評価やいかに。

背ばり紙に製本修理日を記入し遊んでみた 晴れて蔵書の仲間入り
fig.05 背ばり紙に製本修理日を記入し遊んでみた(左) fig.06 晴れて蔵書の仲間入り(右)

『文士と釣り』丸山 信:編(1979年・阿坂書房)に、芳賀故城の「晴釣雨稿」が掲載されている。
芳賀故城が、1976(昭和51)年03月に開催された土師清二『つり人生』出版記念会当日の土師清二を回顧した一文で、その中に 「昭和19年01月18日、土師清二は夫人の郷里千葉県小見川へ家族と疎開、魚肉類配給の極度に不足した時代にタナゴ・モロコ・カワムツ・フナ を釣り病床の夫人に食べさせ看病、しかし夫人は昭和20年07月に帰らぬ人となった」こと等が描かれている(105-126pp)。

後進の釣り人に、土師清二が
残してくれた宝物5冊
fig.07 後進の釣り人に、土師清二が残してくれた宝物5冊

千葉県在住のよしさんが、『晴釣雨稿』を入手し製本修理することになったのも、何かの御縁であろう。
後進の釣り人に、『晴釣雨稿』・『魚つり随筆』・『釣道楽』・『魚つり三十年』・『つり人生』 を残してくれた土師清二に、感謝したい。

【謝辞】
(special thanks Mr S.watanabe and hi's Grandfather, yoshisan.)

【参考文献(よしさん架蔵書)】
『晴釣雨稿』  土師清二 1934(昭和09)年08月20日 273pp 岡倉書房 壱千部限定版の内515番 定価貮圓
『魚つり随筆』 土師清二 1941(昭和16)年05月31日 259pp 三省堂 定価1圓50銭
『釣道楽』   土師清二 1948(昭和23)年07月20日 199pp 自由出版 定価90圓
『魚つり三十年』土師清二 1957(昭和32)年04月10日 311pp 青蛙房 限定版の内0025番 定価380円
『つり人生』  土師清二 1975(昭和50)年10月20日 321pp 二見書房 1500円
『図書館の製本』  古野健雄 1972(昭和47)年02月15日第1刷 239pp 日本図書館協会 600円
『製本ダイジェスト』牧 経雄 1972(昭和47)年09月01日第5刷 140+5pp 印刷学会出版部 250円

発表:2009年12月09日 よしさん
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