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第9回釣り問題研究会参加報告
A fishing problem meeting report of 9 times eyes.
[整理番号:0109]
第9回釣り問題研究会参加報告

第9回釣り問題研究会は、2006年10月21日(土)東京海洋大学で「釣り人にとっての霞ケ浦」を統一テーマに、 開催され、4題の発表とディスカッションがあった。
@『霞ケ浦への関わり方』水口憲哉(釣り問題研究会)先生
A『霞ケ浦の人・水・魚 ー漁業の変遷からー』工藤貴史(東京海洋大学)先生
B『霞ケ浦の遊漁制度への新たな取組み』横山鉄夫(ワールドバスソサエティー )氏
C『釣り人にとっての環境問題』吉田幸二(NPO法人水辺基盤協会)氏

『霞ケ浦への関わり方』水口憲哉(釣り問題研究会)先生
1970年代までは、霞ケ浦の湖岸に水生植物帯が豊富であった。
具体的には、 1972年、霞ケ浦における水生植物帯は、約1200haであったが、 1982年には、約500haに減少し、 1997年には、約200haにまで激減したことを、(中村圭吾・2002より引用し※1)指摘された (特に水中から陸上へ続く自然勾配上の植生、ガマ・ヨシ等の抽水植物帯の壊滅的消失)。
また、1984年に、霞ケ浦で実施したオオクチバス捕獲状況調査によれば、 オオクチバスの最初の捕獲年は、新利根川河口域で1978〜1979年、北部の恋瀬川河口域で1978年、 であった(水口先生資料)。
さらに、自然湖岸の大半を直立コンクリート護岸に置き換える、人為的な環境改変がオオクチバス等の定着を 容易にした可能性がある、とした環境省の報文(2004年)も披露された。

『霞ケ浦への関わり方』水口憲哉(釣り問題研究会)先生

水口先生が
「魔魚狩り、2005年、フライの雑誌社」で、 『しかし琵琶湖総合開発で環境が大きく変えられ、水位変動が激しくなって岸の植物もなくなり汚染も進む なかで、バスが爆発的に増えた。そしてさらに環境が悪くなるとバスも棲みにくくなり、同時にほかの魚も みんな減っている、というのが現状である。これは霞ケ浦でも先に起こったことだ(同書191ページより引用)』と、 主張されていた、「環境が生態系を変える」は、永い研究活動からの帰結であることが 良く理解でき、大変有益であった。
同様に、「環境が変わればそれに適した外来種が増える」という意見
(池田清彦・底抜けブラックバス大騒動、2005年、つり人社)も、至極当然と納得できる。

例えば、千葉県印旛沼の事例をあげれば、江戸時代より幾度も開発がなされて来た。
ガマ・ヨシ等の抽水植物帯の際に矢板を垂直に並べ、打ち込み、土盛り・アスファルト舗装の堤防を築き、 印旛沼を囲い、水門と排水ポンプによる印旛沼の水位管理(水甕化)は、知られていることだ。
特に北部印旛沼と西部印旛沼を結ぶ捷水路は、現代の開削で、その両岸は直立コンクリート護岸である。
その印旛沼にゴミ埋め立て浸出排水が流入し、上水道用水を取水し柏井浄水場へ送水している。
それでも印旛沼に救いがあるのは、水生植物帯が消失せず、残っているからと推定される。

他方で、 茨城県牛久沼を眺めれば、牛久沼には水中から陸上へ続く自然勾配上の植生、ガマ・ヨシ等の抽水植物帯 を含む水生植物帯がある。
2006年02月27日の東北大名誉教授・大方昭弘先生の講演「牛久沼の水生植物について」(※2)においても、 牛久沼全体(617ha)の16%がヨシ・ガマ・マコモに覆われていると、 水生植物帯の重要な働きが指摘されている(牛久沼の水面積は約350haで、水面積に対する水生植物帯は約28%にも達する)。
水口先生のお話にあった、霞ケ浦の水面積は約16760ha(国土地理院数値)といわれ、 水面積に対する水生植物帯は、豊富であったとされる1972年が約7.2%、1997年には約1.2%である。
第9回釣り問題研究会から帰宅して、そのような試算をしてみると、 牛久沼の水生植物帯の質と量が大変貴重であることを、再認識させられた。
何より、今ある状態を、苦労があっても上手に保全し、適度に暮らしに生かすことの重要性を教えられた。

『霞ケ浦の人・水・魚 ー漁業の変遷からー』工藤貴史(東京海洋大学)先生
1960年代後半までは、霞ケ浦の湖水も富栄養化しておらず、 漁獲魚種はワカサギ・シラウオが主体であった。
1967年に始まる霞ケ浦開発事業(治水)による逆水門閉鎖で、湖水の塩分濃度が低下すると共に 生活排水流入によるN+Pの増加により、霞ケ浦が富栄養化し、 漁獲魚種もハゼ・テナガエビが主体に変化して行った。
1980年代には、コイ・フナ(あまり消費されていない魚)に変化し、 さらに近年は、ブルーギル・ペヘレイ・チャンネルキャットフィッシュ・ハス・モツゴ等に漁獲魚種が 変化していることが指摘された。
霞ケ浦からの漁獲物は地元で加工され消費されていたが、漁獲魚種の変化により、加工業の衰退と 地元以外からの原材料仕入れを余儀なくされた。
加工・流通・消費の各段階で霞ケ浦は疎遠になり、人の霞ケ浦依存度が低下してきた。

霞ケ浦に対する社会的欲求の変遷を、Abraham harold maslow の仮説(※3)になぞらえ、 生存欲求(治水)→自己安定欲求(利水)→自己充実欲求(親水思想)→自己実現欲求(保全)の時代を 迎えているのではないかと感じられる、という意見を発表された。

『霞ケ浦の人・水・魚 ー漁業の変遷からー』
工藤貴史(東京海洋大学)先生

Maslow(1954)の 5つの欲求の内、 「所属と愛の欲求」+「承認の欲求」を、「自己充実欲求」に見立て(親水思想)に当てはめるのは、 やや苦しい解釈だが、全体の変遷史はマスとしてつかめているように思う。
暮らしの中で、見失いがちな時代の流れ・動き・大局を、釣り問題研究会の場で整理し提示頂けることは、 考えるきっかけになり、大いに啓発された。

『霞ケ浦の遊漁制度への新たな取組み』横山鉄夫(ワールドバスソサエティー )氏
霞ケ浦は海区扱いであるが、横山さんが霞ケ浦で主宰するオオクチバス釣り大会の出場メンバーには、 茨城県内水面漁業協同組合連合会発行の茨城県内内水面共通遊漁証(雑魚券)の所持を義務付け、 新利根川漁協を通じ100枚購入したと、発表があった。
その発端は釣り問題研究会後半の、ディスカッションの中で明らかになった。
曰く。
霞ケ浦は流入河川と繋がっており、海区(霞ケ浦)の釣りと河川(内水面)の釣りは連続している。
河川(内水面)の釣りに遊漁料が必要であることは承知していたが、一つづつの河川で遊漁料を支払うのは 実質的に煩雑であり負担も大変と考えていた。
しかし、茨城県内内水面共通遊漁証(雑魚券)というものがあり、それを購入することにより、 各河川(内水面)毎のファジーさ・リスクも避けられ、社会にオオクチバス釣り人の存在を認知してもらう 方向へ迎うことができるのではないか。
内水面共通遊漁証(雑魚券)を持つことで、堂々と釣りができる権利を得られるのみでなく、 (遊漁料を)取られるという感覚を脱し、漁協事業に多少の貢献ができた(ある種の環境税的感覚)という 心の余裕が生まれた。
心の余裕は、マナー向上と釣り場環境の良化・美しい釣り場に繋がるものと考えられ、今後も継続して 行きたい、と考え方を示された。

『霞ケ浦の遊漁制度への新たな取組み』
横山鉄夫(ワールドバスソサエティー )氏

海区(霞ケ浦・琵琶湖等)におけるオオクチバス釣りを主とする釣り人には、淡水域の釣り=遊漁料支払いという 認識の稀有な人が多いようだ。
周知のように、海区には第5種共同漁業権の設定がなく、釣りは無料だから遊漁料支払いという認識がないことは無理もない。
しかしそこが、釣り場を保全する様々な人の、多岐にわたる努力に立脚したエリアであってみれば、どうだろう。
ある日突然ビジターとして訪れ、楽しい時を過す・釣果を得る等のメリットだけを無償で享受し、 夕刻と共に撤退されては、場を守る地元の一部に「トンビに油揚げ」という感覚を持たれても 仕方なかろう。
牛久沼・印旛沼・亀山湖のように、内水面漁業協同組合が第5種共同漁業権免許を持つ水域で、釣り経験の永いよしさんには、 横山さんの茨城県内内水面共通遊漁証(雑魚券)購入の話は、思いがけず新鮮に響いた。
河川の下流域と湖沼の内水面漁業協同組合にとって、内水面共通遊漁証(雑魚券)購入は、力づけられることである。
なぜなら、購入者はもはやビジターではなく、大切な顧客だからである。
ワールドバスソサエティー↓
http://www.wbs1.jp/top.html

『釣り人にとっての環境問題』吉田幸二(NPO法人水辺基盤協会)氏
吉田さんは、ゴミを拾う、第12回防塵挺身隊の活動記録をDVDで上映・発表された。
霞ケ浦に流入する桜川に、一定区間(200m〜1000m)を定め、その区間内にある全てのゴミを回収する 作業は想像以上のもので、壮絶さを感じた。
ウェーダー・ライフベストに身を固め、船を使用した回収チームが、河岸のアシの奥まで立ちこみ、外来ゴミ用バケツ に生活系ゴミを回収して行く。
中には土砂に半ば埋もれたバイクもあり、バイクにロープを結び漁船で引き揚げる場面もあり、驚いた。
陸上分別チームは、可燃物・不燃物に分け、土浦市に最終処分を委託していると報告された。
こうした活動のきっかけは、
「ゴミのない所で釣りをしたい」
「釣りで、霞ケ浦(海区)というフィールドを使わせてもらっているのだから、少しお返しをしたい」
「何とかしなくちゃ、やれることをやろう」という発案だそうだ。

『釣り人にとっての環境問題』
吉田幸二(NPO法人水辺基盤協会)氏

それにしても、河岸に立ちこみ、電化製品・ドリンク系ビン・PETボトル・発泡スチロール・古タイヤ等の 生活系ゴミを徹底して回収・排除する様は、執念の鬼のように思えた。
ポロリと洩れた「奉仕活動と思っては、続けて行かれない」という本音に、本気で立ち向かう猛者の 強さが見えた。
防塵挺身隊の活動済エリアにおいて、アシ原が少しづつ回復している様子は、ご同慶の至りである。
水生植物帯の復元にも目を向けた、吉田さんの提唱に声援を送りたい。
NPO法人水辺基盤協会↓
http://www.npo-mizube.org/

【参考】
※1
中村圭吾 なかむらけいご=独立行政法人土木研究所・ 水環境研究グループ河川生態チーム主任研究員・工学博士
湖沼沿岸帯の復元の考え方とその実例
http://www.pwri.go.jp/team/kasenseitai/ja/kenk2/html/206/restoflake.htm

※2
東北大名誉教授・大方昭弘先生の講演「牛久沼の水生植物について」
牛久沼漁業協同組合HP・事業報告
http://www.ushikunumagyokyo.or.jp/

または、 茨城県内水面漁業協同組合連合会・小冊子「魚たちのすみよい川と湖」(2006年03月)
http://www.h3.dion.ne.jp/~ib-naigr/

※3
Abraham harold maslow (1908-1970)アメリカの心理学者・NY生まれ
Maslow(1954)の 5つの欲求
「生理的欲求」食物や睡眠などをはじめとする有機体としての生理的機能を維持するための欲求
「安全欲求」安全、安定、依存、保護、恐怖・不安・混乱からの自由、構造・秩序・法・制限などを求める欲求
「所属と愛の欲求」愛情に満ちた人間関係や、集団や家族への所属に関わる欲求
「承認の欲求」自己に対する高い評価、自己尊敬など自信・自尊心に関わるものと、他者からの承認などに関わる欲求
「自己実現欲求」自己の成長や発展の機会を求め、自己の潜在能力の実現を求める欲求。自分が本来なるべきものになりたいとする欲求


霞ケ浦という釣り場の理解、様様な手法を通じた霞ケ浦への各々の係わり方に、触発され得るものが多々あった。
釣りをグローバルに展望したい、釣りに関する自身の固定観念を打破したい、少なからぬ衝撃を受けてみたい諸兄に、 釣り問題研究会への参加をお勧めしたい。 牛久沼漁業協同組合顧問 よしさん

Let's enjoy life to the full.
Updated.2006年11月01日発表
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