[整理番号:0069]
北国の冬に人気の釣魚といえば、筆頭格はワカサギであろう。
大人に限らず子供でも簡単に釣れること、数が釣れること、食べておいしいと、三拍子そろっている。
かの開高 健大兄も釣っている。
『糸をたるませるとワカサギの微弱な当りが読みとれないから、いつも糸をピンとさせておき、
静かに竿を上下する。ワカサギがとびつくと、かすかにブルブルとくる。それをグイとあわせてはいけない。
グイとあわせると、魚の口が切れて、逃げてしまう。それくらい脆いのである。そのままスイとあげればよろしい。
ホラ、二匹一度にかかった。ホラ、また釣れた。また釣れた。またまた釣れた。』
(私の釣魚大全 ワカサギ釣りは冬のお花見であること)。
江戸時代から夷隅川・作田川・霞ケ浦などが太平洋側の自然繁殖の南限とされていて、
今も関東以南の温暖とみなされるエリアで、ワカサギの知名度はあるけれど、
実際に魚が生息し、遊魚者が簡単に釣れる釣り場は少なかった。
そのワカサギが、首都圏に隣接した房総の亀山湖で釣れている。
今シ−ズンの亀山湖には、約一億粒が放流されており、連日、
百や二百が釣られたところで、資源の大勢に影響はなく、当分釣れ盛るだろう。
よしさんは百かぞえるのも大儀なのに、一億もかぞえた人々は偉いもんだ。
そういえば諏訪湖では、釣果のワカサギを数える単位はキロ(グラム)だという。
まっ、それほどたくさん釣れることの証と、覚えておこう。
ワカサギの産卵期は2〜3月、産卵後オスは斃死するがメスは2〜3年生きるものもある。
抱卵している今が釣りどき、食べどきといえる。
料理法でだれもが思いつくのは、てんぷら、フライ、カラアゲ、白焼き、塩焼き、昆布巻き、吸物というところ。
魚体が小型だから白焼き、塩焼きには串を打つとよい。
カラアゲを酢醤油につけておけば、保存がきく。
ワカサギ丼は、抱卵して太ったワカサギのフライを、砂糖・醤油味でさっと煮て、おつゆごとご飯にのせたもの。
うまい味噌汁と漬物もとうぜん必要だ。
甘露煮は、焼いた魚を半日天日干し。鍋にワカサギをならべ、醤油・砂糖・ミリン・酒でつくり冷やしておいたタレを
魚がかくれるまでいれ、落としぶたで煮る。途中で魚をひっくりかえさないのがコツ。
利久煮は、生きた魚を1時間ほど塩水につけ、水気をとって、ハチミツ・醤油・砂糖・みそのタレで、タレがなくなるまで
煮つめたら、白ゴマをふっていただく。
ワカサギ1尾は
食品成分からみると、カルシウム(750mg)とビタミンB2(0.36mg)の含有量が抜群で、海水と淡水の全魚類中、最高値に近いから立派である。
なんだか、釣りより食い気の話になってきた。
あぁ、おなか減ったょ。さて。
亀山湖では、氷に孔を開ける労力もいらないし、寒さも北国ほど厳しくはない。
もとより、氷がゆるんで落水する恐れもない。
ボ−トを借り、鼻をくすぐる菜の花の甘い香りと、ウグイスの声を聞きながら、相棒とゆらゆら、
ルンルン気分のお手軽さで釣れる。
亀山湖産ワカサギに挑戦して、亀山湖の幸の恩恵にあずかることも
春の楽しみである。
【追伸】
開高大兄のウンチクは、下記文献などでお楽しみ頂けます。
☆私の釣魚大全 1978年08月25日第1刷
文春文庫127-2 株式会社文藝春秋
☆河は眠らない 1990年01月15日第8冊
開高健全ノンィクション1 株式会社文藝春秋
☆冒険者と書斎 1997年09月18日第1刷
ランティエ叢書5 株式会社角川春樹事務所